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娘。という牢獄からの脱獄

1 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/21(日) 22:37
プロローグ その壱「安部なつみが見た夢」
 
無限・・果てなど見えない、ただ空虚な闇。
上を見ているのか?下を見ているのか?
右を向いているのか?左を向いているのか?
目を閉じているのか?開いているのか?
理解から程遠い、空間。そして感覚。
足元には地はあるのだろうか?
全神経を疑いたくなる程の、無感覚。
無感覚という名の感覚。
ただ、はっきりと分かる事、理解出来る事、具象ながらも言い表せる事。
それは・・・
自分。
自分がここにいる事。
それだけが確かな私の感覚。


2 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/21(日) 23:08
プロローグ その弐「幼少時代」

ゴォン・・!ゴォン・・!
いつまでも休む事無く、鳴り続ける機械音。
町の中心の煙突から、毎日、朝から夕方まで、
その煙突からこの音は響いていた。
それは、なつみが町を出るまで響いていた。
その町は小さな町だった。

駅の前になつみは自転車を置いた。
後から数分遅れて友達が来た。
「なっちゃん、待ってよ」
「みっちゃん!早くしよ!ねえ!」
待ってられない、といった動きをなつみがする。
みっちゃんと呼ばれた少女は慌てて自転車に鍵をかけ、
「わかった、わかった」と言った。
安部なつみ 八歳。
松本美鈴  八歳。
春。

なつみと美鈴は電車の窓を並んで覗いた。
そこの風景は全て見た事のある景色ではあったが、
動いた景色は見た事が無かった。
なつみが慌てて指をさす。
「あっ!学校だ!」
「ほんとだ!」
動いている学校。
そのまま、なつみ達の学校は左から右へと流れていった。
何度と無く通っている学校がまるで別のものに見えた。
不思議と、学校が見えなくなった時、なつみの胸に興奮と寂しさが残った。
「見えなくなったね。学校」
「うん・・見えないね。」
なつみと美鈴はそれからも窓を覗きつづけた。






3 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/22(月) 21:28
第壱章

第一話「運命・桜」

春。
今年も去年と同じように安部なつみは大学に通っていた。
バスの中から流れる景色を見るたび、なつみは何故かせつなくな
る。
理由は分からない。ただ、何か大事なモノを失ったような気持ち
になる。

歩道橋を何度かくぐると、バスは大きく右折した。吊り革がその
動きに抵抗するように大きく揺れた。
なつみは窓から目を離すと、自分の足元のバッグからカセットウ
ォークマンを取り出した。MDなどが流通しているこのご時世に
、カセットウォークマンは珍しかったが、なつみは古いそれを好
んで愛用していた。カセットを入れ、大きなボタンを押し込む。

ガチャッ・・!
♪HO〜ほら行こうぜ・・
なつみは少し溜息をついた。バスはまだ一度もバス停には停まら
ず、ただ目的地に向けて静かに走りぬける。
ウォークマンから流れてくる音楽は、なつみが生まれる前、数十
年前に流行った『モーニング娘。』というグループの曲だった。
なつみは『懐かしの名曲音楽祭』というTV番組で初めてモーニ
ング娘。の歌を聴いた。九人の若い女の子達が金色の衣装を纏い、
笑顔で踊りながら歌っていた。元気良く。楽しそうに。

                 #

目的地である大学前のバス停に着くと、なつみは大学の校門をく
ぐった。桜色の花びらが出迎えるように一斉に飛び舞った。その
花吹雪にしばらく、なつみの目は奪われていた。
舞っていた桜の花びらがほとんど地面に降りると、なつみは桜の
樹の下に誰かいるのに気が付いた。

その女の子は小柄な体で茶パツの、なつみと同い年位のコだった。
なつみは目が合ったので少し、感じ取れるかどうか位で会釈をし
た。
女の子は気付いていたのか、いかなかったのか、何も言わず校舎
に向かって歩き始めた。なつみは少々、ムッとしたが、まあ、別
に返事を期待してたわけじゃないし、構わず、なつみも校舎に入
っていった。

お昼休み。なつみの通う大学には学食がない。日本広しと言えど
も、学食の無い大学など、ここぐらいなもんだろう。
と言うのも、先週、学食の中に医学部の薬品がどこからか、混入
されていただなんだで、一時的に食堂が封鎖されているのである。
しかも薬品は即効性の毒薬だったらしく、昨日は警察が食堂にい
た生徒に何か話を訊いていた。
まあ、そう言う事でなつみは強制的に昼は大学外に食べに行かな
ければいけなくなっていた。

全く・・面倒くさいなあ・・・。
なつみは大学の外に出ると、すぐに近くの喫茶店に入った。
喫茶店の中は大学生で少々、埋まっていたが、なつみは別段待た
される事も無く、すんなり席に座れた。
「ふう・・」
なつみは外の景色を見ながら一息ついた。すぐに水とメニュー表
を持った可愛いエプロン姿の女の子が現れた。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
なつみはその女の子のアニメのような可愛らしい声に少々、面食
らったが、まあ、この顔にこの声なら良い意味で納得できた。

ハンバーグ定食のバターコーンまで残さず食べた後、なつみはし
ばらくぼんやり空を眺めていた。
「今日も良い天気だべ・・」
そう呟いたと同時に、
「ふぅ・・」
という声と共に前の席に誰かが腰掛けた。なつみはけげんな顔で
そちらに振りかえると、朝の、桜の樹の下の女の子がそこにいた。
「え・・?」
「ど〜も〜、初めまして!」

それが矢口真里との出会いだった。


4 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:03
なつみがわからないという顔をすると、矢口は構わずウェイトレ
スを呼び止めた。
「すみません。コーヒー一つ」
「かしこまりましたあ。そちらはご注文はございますか?」
ウェイトレスがなつみの方を見てアニメのような声で訊ねたが、
なつみの耳には届いていなかった。
(なんだべさ・・・この子・・)
なつみは黙って矢口の顔を見ていた。


5 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:04
「注文はいいみたい。」
「そうですか?じゃあ・・」
ウェイトレスは席から離れて、又、別の席の注文を受けにいった。
注文を終えた矢口はなつみがじっとこちらを見つめているのに気
が付いた。
「なんだよう、なっち。なにか矢口の顔についてる?」
「え・・いや・・」
なつみは慌てて視線を落とした。
と、おかしな事に気付く。
(今、この子、『なっち』って言った?)


6 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:05

慌ててなつみは訊ねた。
「もしかして・・あった・・事ありますか?」
「?」
矢口はけげんな顔をしてなつみを見つめた。再びなつみは視線を
落とす。矢口が口を開いた。
「もしかして覚えてないの?」
なつみはただ黙って縦に頭を振った。


7 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:05
「え〜!矢口、ショックだよ〜!」
矢口は眉をハの字にして叫んだ。
「なっちまで矢口の事覚えてないの〜?親友だったじゃ〜ん!」
なつみはどうしていいかわからなかった。
本当に話した覚えも無ければ、すれ違った記憶も無い。
「すみません・・・」
なつみは正直に謝るしかなかった。
と、そこにウェイトレスがコーヒーを持ってきた。


8 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:06
湯気だったコーヒーをテーブルの真ん中に置くと、
「ごゆっくり」
と言って席から離れた。
矢口はウェイトレスを指差して言った。
「あの子は?あの子は覚えてる?」
なんとなくその矢口の表情は鬼気迫る感じがあった。
なつみは「ごめんなさい」と再び謝った。
すると、矢口の表情が何故か和らいだ。



9 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:06
「なんだ。まだ目覚めてないのか・・」
さっきまで一人大騒ぎしていた矢口は大人しく椅子に座った。
なつみはわけがわからず、少し泣きそうになっていた。
(なんなんだよ〜、この子〜)
(わけわかんないよ〜)
(早くここから出たい!)
なつみがそう思って席を立とうとした瞬間、なつみの足に一瞬、巻
きついた感覚がした。そのままなつみは再び席についてしまった。


10 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:07
「ちょっ、ちょっと!話聞いてよ〜!」
矢口が唇を尖らせてなつみに訴えた。
が、なつみの頭の中は今の足に起きた感覚の事でいっぱいだった。
(何!?いまの!?)
足元を見てみるが、別段、何かが起こった様子もない。
「ちょっとお!なっちぃ!」
矢口が再び訴えた。



11 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:08
「ちょっ、ちょっと!話聞いてよ〜!」
矢口が唇を尖らせてなつみに訴えた。
が、なつみの頭の中は今の足に起きた感覚の事でいっぱいだった。
(何!?いまの!?)
足元を見てみるが、別段、何かが起こった様子もない。
「ちょっとお!なっちぃ!」
矢口が再び訴えた。


12 名前:次の日、暮らし 投稿日:2002/04/24(水) 19:09
先程、矢口の注文を受けたウェイトレスは厨房の入り口で、お冷を
注いでいた。そのウェイトレスの横には四つ、水の入ったコップが
並べられている。
「ふぅ・・」
ウェイトレスは忙しそうな溜息をつくと、四つのコップの上に手を
かざした。
すると、信じられない事が起こった。
ウェイトレスの指先から握りこぶしより少し小さい位の氷が次々と
現われ、コップの中に落ちていったのである。
「・・・よし・・」
ウェイトレスはそのコップをお盆の上にのせると、そのまま厨房の
外へ出ていった。


13 名前:nanasi 投稿日:2002/05/02(木) 23:13
>>1



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